『ザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たち』

 

作者:スコット・パタースン (著), 永峯 涼 (翻訳)

出版社: 角川書店(角川グループパブリッシング)

発売日: 2010/8/28

 

2007年、米国でサブプライム住宅ローン危機が発生。
あらゆる分野の資産価格が暴落し、世界的な金融危機1を引き起こしました。
2008年には投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻、市場の不信とリスクへの恐怖が膨れ上がり、危機の連鎖を加速。
世界経済は大きな傷を負い、その温度を急激に下げたのでした。

およそ10年後にあたる今、当時の過ちは分析され、原因も明らかにされています。
しかし、蓋を開けてみても、複雑に進化した金融商品のごった煮を前に、門外漢は立ちすくみます。
 
「結局、なんだこれは…?」
 

金融危機の前線にいたプロの物語

本書は2007年の金融危機の裏側において、共倒れの鎖をあらゆる金融商品に繋ぎ、莫大な利益を上げながら、最後には鎖とともに自壊したプロフェッショナルの物語です。
彼らはクオンツと呼ばれ、物理学や数理の才能を活かし、リスクを飼いならしリターンを最大限に得る専門家でした。

クオンツの誕生はおよそ60年代まで遡ります。
始祖であるエド・ソープは、マサチューセッツ工科大学 (MIT) で数学講師として教鞭をとっていました。彼はMITの大型計算機を使い、数学的に証明されたブラックジャックの必勝法を世間に知らしめたのち、株式市場に戦場を移し、成功を収めました。

ソープの手法とは、当時は算出が難しかったオプションの適正価格を導き出し、株式と社債の組み合わせによりリスクを極限まで抑えるというものでした。
ソープの成功により、数理に長けた若い人材は証券会社や投資銀行へと流入します。
中でも傑出したソープ・チルドレンたちは、ソープの手法からさらに進み、増殖するデリバティブを自らのモデルに組み込み、富を築きます。
頭脳とコンピューターによる解析が、彼らの武器でした。
Quantitative(数量的、定量的)の高度な解析と数学的な手法で利益を上げる投資戦略を構築する彼らは、従来型のディーラーに対して「クオンツ」と呼ばれるポジションを築いたのです。

市場の聖杯の行方

彼らは「聖杯」を得たと自負していました。

投資家の間で噂される、必ず勝てる方式、金が金を無際限に生むような秘密。それが「聖杯」です。
円卓の騎士からインディジョーンズまで、歴戦の勇者たちが追い求めた奇跡は現代において、金融工学に形を変えてその姿をちらつかせていたのです。

現に彼らは、豪邸を建て、名画を買いあさり、週末には賭け金数千万のポーカー大会を身内で開いていました。
これを栄華と言わずして…
しかし、彼らが構築した安定的な蓄財システムは、唐突に、無慈悲に均衡を崩します。
あるいは見方を変えれば不均衡が是正されたのかもしれませんが…

本書では、金融危機がなぜ起きたのか、その原因の一部を垣間見ることができます。

彼らは間違えたわけですが、そもそも「聖杯」はあったのか、それとも「聖杯」への問いかけを間違えただけなのか。
死にゆくフィッシャーキングを横目に、騎士は手元の富が幻か否か、判断を下せないままでいるのです。

 

 

 

  1. アメリカでの住宅価格の伸びが鈍化した結果、信用力の低い層向けの住宅ローン・サブプライムローンの貸し倒れリスクが急上昇。リスクを世界中のあらゆる金融商品に分割・証券化したために信用リスクが連鎖的に広がり、のちのリーマンブラザーズの破綻を導く。