『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』

著者:牧村康正 山田哲久

出版社: 講談社

発売日:2015/9/9

 

「この、私たち人間が今一番持たなければならない認識と夢を、大人はもとより、特に子供たちに語りかけたいと考えて、私たちは、『宇宙戦艦ヤマト』を企画した。この作品は、二千××年、地球上の全人類が滅亡しようという時に、決然と立った少年少女の活躍を物語る、SF冒険アクションのドラマである。そして、彼らの行動を通して私たちが描きたいのは、人間とは『愛』だという、このひとことなのだ」

77億の負債を背負って破産。

覚せい剤所持、銃火器所持の罪1で逮捕。

気まぐれに現場をかき回す姿勢は社員に疎まれた。

俗っぽく、カネと権利にうるさい生き方が、手塚治虫、松本零士、富野由悠季など名立たるクリエイタを敵に回した。

『宇宙戦艦ヤマト』をつくった男、プロデューサー・西崎義展の人生には野性味があふれている。
気性が激しいのみならず、社屋に盗聴器を仕掛けたりハッタリで金を引き出す狡猾さを持ち合わせていた。

まさに山師である。

当時38歳、企画書の冒頭に「愛」などと書いて、この男は何を考えていたのだろう。
少なくとも、男が抱えた何人もの「プライベート秘書」に対する愛ではないはずだが。

野望と欲望の『ヤマト』秘話

『宇宙戦艦ヤマト』(以下、『ヤマト』)はアニメ史に輝く星である。
子供向けと思われていたアニメの常識を変え、のちの日本アニメ界を支えるクリエイターを育てた。
スタッフの才能と心血が注ぎ込まれた名作は、しかし、西崎のような山師がいなければ生まれなかった。

漫画原作に頼らないオリジナル企画の立案、現場を支える一流スタッフの結集、徹底討論によるシナリオ構成、金と時間を惜しまない大胆な画づくり、作品と連動する版権ビジネスの拡大、ストーリーを盛り上げる音楽性の高さ―西崎はそれまでのアニメ製作に類例のない手法を取り入れた。

 

業界の常識に逆行し、晩年にいたるまで『ヤマト』に賭けつづけた男にとって、『ヤマト』は単なる「ヤマ」のひとつではなかった。

 

西崎がアニメと関わるきっかけは、虫プロ商事の企画制作部長としてだった。
もともと芸能プロダクションでプロモーターとして働いていたが、金銭トラブルを抱えて国外逃亡、業界に身の置き場がなくなった西崎は追い詰められていた。
広告代理店のツテで経営難に苦しむ虫プロ商事に潜り込んだ西崎は、もちろん、アニメについてはズブの素人だった。
しかし西崎にとって立場を演出するのはたやすいことだ。

出社早々、「オフィスの真ん中に座らせろ。俺が会社の責任者だって分かるように」である。

実際、ショービジネス上がりの西崎から見て当時の虫プロ商事はぬるま湯のような環境だった。
巨匠の下で働きたい人材は集まるが、選別が甘いために人件費ばかり膨らむ。
利益が出なくても手塚治虫のポケットマネーでどうにかなってしまう。
手塚作品の人気が落ちると、あとはジリ貧といった状況だった。

儲けの種を見つければコスト度外視で掴みかかる西崎の手腕により虫プロ商事2 は持ち直すが、沈みかけた船を浮き上がらせることはできなかった。
西崎は独立し、株式会社オフィス・アカデミーを立ち上げる。
埋没した『ヤマト』を宇宙へと飛び立たせるのは、ここからだ。

デスラー、その後

『ヤマト』制作にあたっての衝突、熱狂と夢のような成功、そして破滅へと向かうドラマは実際に読み追っていただきたい。
ここでは、西崎が企画書に書いた「愛」の中身を、本書からいくつかの証言を引いて示したい。
食うか食われるかのような人生を辿った男が、『ヤマト』においては純真さを発露する姿に、奇妙な感慨を覚えるのである。

 

西崎は「ヤマト」に登場するガミラス帝国のデスラー総統がお気に入りだった。
「デスラーと容姿が似ていることを意識して、セリフを暗唱したり、演技をしてみたり、すっかりその気になって、『赤坂のデスラー』を自称していました」3
優雅にして冷酷、独自の哲学を持った青年貴族に心酔し、本物に近づくための努力を西崎は惜しまなかった。周囲の者も笑い話にできないほど、その様子は真剣だった。

 

企画書や梗概の一部を詠嘆的に朗読し、目にうっすらと涙をうかべて語るプロデューサーの姿にも驚かされましたが、それを芝居じみたと感じさせないのは、大仰にいうと、魂の伝達という熱が感じられたからです。『純粋さ』『真摯さ』『愛』『自己犠牲』を、これほど真面目に語った人を知りません。4

 

西崎さんが愛してやまなかったもの、それはやっぱり『ヤマト』ですね。役員会での雑談で、西崎さんが将来はどこそこに『ヤマト』の公園を作って、実物大の『ヤマト』を設置し、自分は館長として子供相手に案内したいと話していました。なにもかも嘘だらけの西崎さんですが、『ヤマト』への愛情だけは本物だったのでしょう5

 

  1. 石原慎太郎とともに尖閣諸島へクルーズした際、海賊からの自衛手段としてグレネードランチャー、自動拳銃を購入していた
  2. 手塚治虫が経営する虫プロダクション、その子会社。虫プロの経営難を背景に版権部、出版部、営業部を独立させ負債を引き継ぐため設立された
  3. オフィス・アカデミー時代のアシスタントプロデューサー、山田哲久の言葉
  4. 西崎の刑務所収監にあたって、『ヤマト』の主題歌を作詞した阿久悠が寄せた嘆願書からの抜粋
  5. オフィス・アカデミー時代のデスク秘書、吉村良江の言葉