Voodoo in My Blood

2016年、映画『ファンタズム』1 シリーズ第5作目の公開はホラー映画ファンを驚かせた。
新シリーズやリメイクではなく、1作目から続くクロニクルが16年ぶりに復活するということはもちろん、なによりあの<トールマン>が現役で登場したのだ。
魔人<トールマン>を演じるアンガス・スクリム2 は、第1作目(1979年公開)の登場において初老の怪紳士といった出で立ちだった。
まさか40年近く経って同じキャラクターを演じるとは、魔人恐るべし。

 

『ファンタズム』といえば、<トールマン>と、そのシモベである殺人ボール<シルバースフィア>が強烈な印象に残る。
特に、球体の内側から鋭利な刃物を突き出し、奇抜な方法で獲物を狩る<シルバースフィア>は『ファンタズム』の華といえる。
夢と現実が交錯する幻想的なホラーにおいて、機械的な異物としてシーンを鮮血で彩った<シルバースフィア>は、当時の観客に少なからずトラウマを植え付けたことだろう。

 

奇しくも『ファンタズムⅤ』公開の2016年、<シルバースフィア>によく似た球体がとあるミュージックビデオに現れる。

 

呪術的不安

イギリスが生んだ世界的音楽ユニット・Massive Attack3 によるキラーチューン『Voodoo in My Blood』。
呪術的サウンドに添えられた異様な映像は、鑑賞する人間を不安にさせる。
一体、この女性は、球体は何だったのだろう。

 

ホラー映画ファンであれば、答えは自ずから導き出される。そう、『ファンタズム』である。
そして本映像のディレクター・Ringan Ledwidge4 監督こそ、少年時代、<シルバースフィア>の不気味な魅力に憑りつかれた”ホラー映画ファン”の一人なのである。

 

監督が『Voodoo in My Blood』の制作においてインスピレーションの源として公言5 している映画は2つ。
『ポゼッション』6 と『ファンタズム』である。

 

本作の舞台が地下道に設定されているのは、『ポゼッション』のオマージュである。
女性が、トランス状態のような常軌を逸した身振りを示すのも『ポゼッション』における地下道のシーケンスから引用されている。

 

ただし、『ポゼッション』で描かれるのが内なる魔物との葛藤であるのに対し、『Voodoo in My Blood』では”魔物”は球体として、目に見える形で具象化されている。
球体のイメージは、もちろん『ファンタズム』による。

テクノロジーとヴードゥー

とはいえ、球体は<シルバースフィア>のように人間を殺さない。
刃物を突きつけ、怪光線を飛ばすことから、球体は人間を支配しようとしていることが読み取れる。
一方のロザムンド・パイク7 演じる女性は、壁に打ちつけられ、翻弄される。終盤には獣のように這い、咆哮する。
ここにあるのは、人間性の剥離である。

 

球体と女性の関係性は、テクノロジーと人類の関係を投影していると、監督は語る。

 

I’d been thinking a lot about technology – about how it’s very seductive and sexy, but also very benign until you engage with it, and how that engagement takes over your life.8

 

(『Voodoo in My Blood』の歌詞をうけて)私はテクノロジーについて深く考えてきました。―テクノロジーがいかに魅惑的かつセクシーで、優しい側面を持つかということについて。ただし、関係を持ってしまえば、テクノロジーが生を支配するということについて。(編集部訳)

 

球体は<トールマン>の手下ではなく、テクノロジーが持つ魅力とパワーの権化であるのだろう。

 

しかし、ロザムンド・パイクの比類ない演技は、「ヒトVSテクノロジー」の二項対立を超えて、神懸かり的なダンスのようにも見える。

 

振り返ってみるに、曲名は『Voodoo in My Blood』である。

 

かつてマヤ・デレン9 を魅了した、ハイチにおけるヴードゥーの儀礼。

突発的な憑依とトランス状態での踊りにも似たロザムンド・パイクの身振りはヴードゥー的か。
トランスは受苦、情熱、受動から生じる。
忘我の踊りは、神と通じるための重要な手段でもある。
Ringan Ledwidgeが描いたのは絶望的な「ポゼッション」ではなく、人間を超えたテクノロジーに捧げる「パッション」の表現なのかもしれない。

 

  1. ホラー映画。ドン・コスカレリ監督。1~5までが制作されている
  2. 米国の俳優。1926―2016年。『ファンタズムⅤ』が遺作となる
  3. 英国の音楽ユニット。1988年結成
  4. 英国の映像ディレクター。1971年生まれ
  5. ”The cult inspirations behind Massive Attack’s new video”2016年2月26日http://www.dazeddigital.com/music/article/30051/1/the-cult-inspirations-behind-massive-attack-s-new-video
  6. ホラー映画。アンジェイ・ズラウスキー監督。1981年制作
  7. 英国の女優。1979年生まれ。代表作に『ゴーンガール』など
  8. 同記事
  9. 米国の映像作家、舞踏家、アーティスト。1917―1961年。ヴードゥーの研究に傾倒した