『謎のチェス指し人形「ターク」』

 

著者:トム・スタンデージ

出版社: NTT出版

発売日:2011/12/21

 

碁用人工知能「アルファ碁ゼロ」の進化が凄まじいと話題1だ。
世界トップ棋士・李世乭九段に「アルファ碁」が勝利したのが2016年。
今回開発された「アルファ碁ゼロ」は実験3日後に「アルファ碁」を打ち破り、2017年5月に世界最強の棋士である柯潔(か・けつ)を相手に連勝。
人類が長い歴史の中で積み上げた定石のいくつかを自力で”発見”したほか、いくつかの手はプロですら是非が分からないという。
人工知能は人類より先に深みへと潜っていったのだ。

 

二人零和有限確定完全情報ゲーム2における人工知能の挑戦はコンピュータ黎明期に遡る。
最も世間を騒がせたのはIBMが開発したチェス用人工知能「ディープブルー」だろう。
1997年に当時の世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフから勝ち取った金星は、IBMのプロモーションも相まって、コンピュータの発展が遥かなる高みに到達するイメージを人々に強烈に植え付けた。

 

それは18世紀の人々が目の当たりにした脅威と奇妙に似ていた。

18世紀の”人工知能”

1769年、ハンガリーの発明家ケンペレンがマリア・テレジアに披露した人形「ターク」は、トルコ人の風貌、精緻な仕掛けでもって動き、当時流行のオートマタと比べても出色の出来だった。
だが、何より宮廷の人々を驚かせたのは、「ターク」がチェスを指し、チェスに強かったことだ。
彼は人工物として、「ディープブルー」より早く人間に勝ったチェスプレイヤーだった。

 

本書はチェス指し人形「ターク」がおよそ半世紀以上にわたって欧米を周遊し有名なチェスプレイヤーを打ち負かした経緯を追いながら、当時の人々が抱いた感嘆と懐疑の様子を綴る。
「ターク」は生みの親であるケンペレンとともにヨーロッパを巡ったのち、興行師の手に渡り、挑発的な見世物として長く人々の好奇心を刺激し続けた。

 

「ターク」の対戦相手にはナポレオンやベンジャミン・フランクリンもいたとされ、彼らの伝記を彩る奇妙なエピソードとして轍を残している。

 

一方で、当然の疑問を抱いた人々もいた。つまり、「なぜタークはチェスを指せるのか」という謎について、「ターク」を目の当たりにしたメディアや発明家、知識人は推論を組み立てた。エドガー・アラン・ポーなども、熱量の高い考察を書き残している。

 

では、「ターク」の仕組みとはどのようなものだったのか。
本書は結論を急がず、ミステリー小説のように答え合わせを餌にして読者を先へ先へと駆り立てる。
そのスリルを味わうためにも、決してグーグル先生に答えを聞いたりしないこと。
ただし、読了後、「ターク」の動く姿を見たくなった読者は先生に尋ねてみるのもいいかもしれない。

 

  1. NHKWeb『「AlphaGo」が進化 囲碁の打ち手教えずに従来型破る』2017年10月19日 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171019/k10011182291000.html
  2. プレイヤーが二人。プレイヤーの利得の合計が常にゼロ。可能な手の組み合わせの総数が有限。偶然に左右されない。各プレイヤーの選択について全ての情報がプレイヤーの手番において開示されている。以上の要素を持つゲームのこと。チェス、将棋、オセロなど