フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ

 

このドアを想像の鍵で開けてください
新しい次元が広がります
音の次元
視覚の次元
魂の次元
影と実態が交錯する未知の世界
いま足を踏み入れようとする世界が
トワイライト・ゾーン

―劇場版『トワイライト・ゾーン』オープニングより

 

1950年代から60年代にかけてはテレビサイズのSF奇譚が盛り上がった時代だった。
その嚆矢ともいえる『トワイライト・ゾーン』1は、気鋭の作家を脚本に迎え、一話完結型のスタイルと定番のOPを確立、人気を博した。
同作品はたびたびリメイクされたのみならず、多くのフォロワー作品を生んだ。

『アウター・リミッツ』『世にも不思議なアメージング・ストーリー』、日本では『恐怖劇場アンバランス』や今でも続くシリーズ『世にも奇妙な物語』などが挙げられるだろう。

とはいえ、いずれもテレビドラマの中では古典ともいえる作品である。
アンソロジー形式のSFドラマを現代によみがえらせるクリエーションは『ブラックミラー』2まで待つことになる。
『ブラックミラー』はNetflix配信により世界が注目し、人気シリーズとなった。
これをきっかけとして、今また、「未知の世界」ブームが訪れるのかもしれない。

なぜなら独自配信を強みとするNetflixに対抗し、競合のAmazonプライムビデオが切ったカードもまた、SFアンソロジーだったからだ。タイトルは『フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ』(以下、『エレクトリック・ドリームズ』)。

振り返れば『トワイライト・ゾーン』ではリチャード・マシスンが脚本に参加し、『アウター・リミッツ』ではハーラン・エリスンが『ターミネーター』の原型である(と本人が主張し、勝訴した) 短編を描いている。
同時期に活躍したフィリップ・K・ディックは、しかし、この流れには属していない。
長編が多く映像化されたディックであるが、テレビドラマにおいて短編が形になるのは恐らく『エレクトリック・ドリームズ』が初だろう(ノンクレジットでディック作品に取材している作品はあるかもしれない)。

現在配信されているのは10エピソード。
ディックファンのみならず、『世にも奇妙な物語』などに親しむ視聴者も気軽に楽しめるショートショートとなっている。

 

作品リスト

 

各エピソードと原作の対応は以下の通り。※上段がエピソード名、下段が原作名。()内は英題。

「真生活」(Real Life)

⇔「展示品」(Exhibit Piece)

 

「自動工場」(Autofac)

⇔「自動工場」(Autofac)

 

「人間らしさ」(Human Is)

⇔「人間らしさ」(Human Is)

 

「クレイジー・ダイアモンド」(Crazy Diamond)

⇔「CM地獄」(Sales Pitch)

 

「フード・メーカー」(The Hood Maker)

⇔「フード・メーカー」(The Hood Maker)

 

「安全第一」(Safe and Sound)

⇔「フォスター、お前はもう死んでるぞ」(Foster, You’re Dead)

 

「父さんに似たもの」(Father Thing)

⇔「父さんもどき」(Father Thing)

 

「ありえざる星」(Impossible Planet)

⇔「ありえざる星」(Impossible Planet)

 

「地図にない町」(The Commuter)

⇔「地図にない町」(The Commuter)

 

「よそ者を殺せ」(Kill All Others)

⇔「吊るされたよそ者」(The Hanging Stranger)

 

まず驚かされるのはキャスト陣の豪華さであり、確かな演技力がドラマを下支えしていることは間違いない。
スティーブ・ブシェミやテレンス・ハワードなどお馴染みの実力派に加え、近年の注目株、ジュノー・テンプルやブライアン・クランストンなどを見られるのも嬉しい。

ディックの代表的な映像化作品『ブレードランナー』はテクノロジーと懐古趣味の融合であるレトロフューチャー的世界観を表現したが、『エレクトリック・ドリームズ』の世界は現代の延長から想像される未来へとアップデートされている。

生活と基本的人権を保証するポータブルデバイス(「安全第一」)、ヘッドセット型VRデバイス(「真生活」)などは既にそのプロトタイプが商品として流通している。人類滅亡後も供給チェーンを死守する無人ドローンとアンドロイドの未来(「自動向上」)は、配信元のAmazonを想起させる皮肉となっていてニヤリとさせる。

 

PKディックが遺した電気羊たち

 

設定も世界観もバラエティに富む『エレクトリック・ドリームズ』だが、通底するテーマとしてディックらしい問い、”自己同一性の危機”が挙げられる。
確かに実在しているはずの”他者”という存在が、ただの作り物にすぎないと曝露される瞬間がある。
その形がアンドロイドであったり、異星人に寄生された結果であったり、ヴァーチャルリアリティ内のキャラクターであったり―
そのとき、自分は果たして自分なのか。これら作り物に過ぎない人格に、自分も含まれているのではないか。
『エレクトリック・ドリームズ』は人間ならざるものの見る夢、電気羊なのかもしれない。

もちろん、同作品の美点が全てテーマに集約されるというわけではない。
管理社会や極度の不寛容社会の恐怖を描く『安全第一』や『よそ者を殺せ』といったディストピアものは定番ながら抑制のきいたブラックユーモアで楽しませてくれる。
あるいは運命に身を投げ出すという点で対照的な選択を描く『ありえざる星』と『地図にない町』は、それぞれが奇妙な余韻を与える佳作だが、主人公を比較するとより興味深い。

タイトルから気になる作品をピックアップして鑑賞するのもいいだろう。

 

終わりに

 

何より原作を素材に各話の監督がどのように腕を振るっているのかを見るのが楽しい『エレクトリック・ドリームズ』。
ディックの作品が古びるということではないが、例えばある作品のオチは、原作のままでは陳腐であったろう部分が改変されている。
その良しあしはわれわれ視聴者の判断に任されるが、少なくともディックの名前を傘に着るだけの作品ではないことは保証できそうだ。

 

  1. アメリカ合衆国で1959年から1964年まで放送されたSF のテレビドラマシリーズ。
  2. 2011年から開始した英国のSFテレビアンソロジーシリーズ