アルゴリズム思考術 問題解決の最強ツール

著者:ブライアン クリスチャン (著),‎ トム グリフィス (著),‎ 田沢 恭子 (翻訳)

出版社: 早川書房

発売日:2017/10/25

 

わたしたちの生活にはアルゴリズムが溢れている。
そう言われても特に驚きはしないだろう。
なぜなら、目の前のPC、肌身離さず持ち歩くスマホ、それらハードウェアに搭載されたOSは例外なくアルゴリズムの力で動いている。

 

しかし、『アルゴリズム思考術』を読むと、電子機器に限らず、わたしたちの思考の根っこにもアルゴリズムが潜んでいることが分かる。
引っ越し先を選ぶのにどれだけの物件を漁るべきか。
部屋に散乱する大量のファイルを使いやすいように整理するには。
身に覚えがあるであろう、こうした経験にまつわる決断の数々が、実はアルゴリズムとつながっている。

直感、あるいは経験則に基づく行動が、アルゴリズム的にも最適解だったとすると、ちょっとびっくりするのではないだろうか。

日常にアルゴリズム思考を

アルゴリズムを一言で表現するなら、問題解決のために定式化された手順だ。
本来は計算可能な問題を計算する手続きを指すが、本書が紹介するアルゴリズムは、採用面接やお気に入りのレストランを決める方法など、一見、計算とは無縁に思える事象の最適解を解き明かす。

例えばアルバイトの面接を考えてみる。
採用担当となったあなたは、できる限り優秀な人材を雇用したい。
応募総数は把握していて、候補者への適切な評価も下せるが、スケジュールの都合上、次の候補者を面接する前に採用を決断しなければならない。さらに、不採用を決めた候補者を呼び戻すことはできない。

このような状況下で、あなたは頭を悩ます。
良さそうな候補者を前にしても、次にもっと良い候補者が現れるかもしれない。
しかし、見送ってしまった結果、ベストの選択肢を逃すことになるかもしれない。
いったい、決断のタイミングはどう決めればいいのか。

アルゴリズムが教える答えは、応募者の人数の「37パーセント」を超えた部分だ。
応募者が5人なら2人目以降で、100人なら37人目以降で最良の候補者に決めてしまえば、最善の結果を生む確率が最も高い。

それにしてもなぜ37パーセント?
最適停止の一種として知られる上述の問題は、n人を対象として最善の選択肢を選ぶ確率が定式化できる。
nを無限大に近づけると約37パーセントに収束していくのだ。

直感的に納得するならば、応募者が3人のケースを考えると分かりやすい。
1人目で決めてしまうと、残りの応募者の情報が全くないためにベストの選択であるかどうか疑問が残る。
3人目で決めると、あとがない。
2人目で決めるならば、1人目の情報がある状態で採用に踏み切ることができるため、偶然より少しは勝る確率で最良の選択肢を得ることができる。

まさに、日常の思考に潜むアルゴリズムというわけだ。

とっておきアルゴリズム・フレームワーク

本書が取り扱うアルゴリズムの問題は11種類。

最適停止、探索と活用、ソート、キャッシュ、スケジューリング、ベイズの法則、オーバーフィッティング、緩和法、ランダム性、ネットワーキング、ゲーム理論。

 

部屋の整理術を模索する読者はソートキャッシュの章を読めばヒントが得られるかもしれない。
うずたかく積みあがった書類の山を前にしてファイリングに悩む人も、キャッシュの考え方に触れてみてほしい。
目を通した書類を積み上げただけの山が、意外に合理的な「ファイリング」となっているかもしれないのだ。

オーバーフィッティングランダム性の話題は、合理性の追及が必ずしも決定論的なシステムを望まないという興味深い現実を示唆する。
モデルに過剰に適合するデータは、モデルそのものを歪ませているのかもしれない(オーバーフィッティング)。
社内政治に長けるが実務で劣り、チームの足を引っ張っている同僚がいるとしたら、それはオーバーフィッティングの例だろう。
問題に対する解を早く、あるいは確実に見つけたい場合、無作為なデータの抽出が正解にたどり着くのを助けてくれる(ランダム性)。
ルーティンにうんざりする日常を変えるのは、ランダムな刺激というわけだ。
これらのことから、普段の生活で煮詰まった状況を改善するには、異常値を許容する緩さがキーとなるかもしれないという気付きを得られる。

 

アルゴリズムの役割は計算負担の軽減にある。
「アルゴリズム思考術」は、認知負担の軽減に貢献する。
採用面接の問題のように、システマティックな手順が決断コストを軽くするのみならず、より発展的な推論へと進めるのにもアルゴリズムは助けとなる。
日常の問題にちょっとした制約を加え、ちょうどアルゴリズムが解決しやすいようなフレームワークを作ってしまえば、物事は格段に進めやすくなる。
「なに食べたい?」と聞かれて、「なんでもいい」と答えるのは上策とはいえない。
「油っぽいものはちょっと…」「昨日と同じでなければ」など曖昧なヒントがあるだけでも、レシピの選択は楽になる。
こうしたことを大なり小なり、わたしたちは自然に学び活用している。
その裏付けを知り、さらなるライフハックに活かすのにおすすめの一冊だ。