アウトサイドで生きている

著者:櫛野展正 (著)

出版社: タバブックス

発売日:2017/4/25

 

きなことで、生きていく」

Youtuber1を象徴するキャッチコピーだ。
「ほんとに好きなことで生きていければ苦労しないよね」など冷ややかな反応もあったようだが、トップYoutuberのヒカキン2の忙しい毎日がドキュメンタリーで明かされて以降、「好きなことで生きていくのも大変だね」と意味がスライドしていった。

結局、Youtuberの「好きなこと」は飯のタネで、仕事である以上、他者から評価されなければならない。
「好きなことで、生きていく」のは、それはそれでもちろん素晴らしいことだが、「好きなこと」ぐらい他者の評価から自由であってもいいじゃないか―
『アウトサイドで生きている』に紹介される人々を知ると、そんな考え方も浮かぶのではないだろうか。

市井のぶっとびアート

 

著者は介護福祉士として働きながら「アウトサイダー・キュレーター」の肩書を名乗る。
肩書にはアウトサイダー・アートのキュレーターという意味と、自らもアウトサイドで生きるという意思を込めているらしい。

アウトサイダー・アートは、一般に、アート制作の訓練を受けていない人々による作品でアートとして扱われているものを指す。
有名なアーティストにはヘンリー・ダーガー3やフェルディナン・シュヴァル4が挙げられる。
ヘンリー・ダーガーは掃除夫であり、シュヴァルは郵便配達夫であった。
二人とも、誰に見せるためでもなく、「好きなこと」のために黙々と時間を積み上げた結果、世間向けの顔からは想像もつかないスケールの作品を完成させた。
本書で紹介される人々はどうだろう。

 

稲村米治さんは、取材当時96歳。
鉄道会社で働きながら昆虫の死骸を集め、接合し、定年後も制作に打ち込んだ結果、武者人形を作り上げた。
使用した昆虫は5千匹。次に制作した千手観音像ではなんと2万匹である。

 

そりゃ、虫を痛めて悪かったけど、途中でやめるわけにはいかないし、なんとかものにしなくちゃね。
ただ、「こんなこと大人がやってていいんかなぁ、何やってんだろう」って思ったことはありましたよ(笑)。
とにかく、人に手伝ってもらうってことはできないから、完成するまで誰にも見せないようしてました。

 

玉虫色のグラデーションが神々しい昆虫像は、見るものに間違いなく衝撃を与える。

 

野村一雄さんは7年かけてA1サイズの超細密な迷路を書き上げた。
その発端が面白い。迷路を書きたいと思って書いたわけではないのである。

 

あるとき目にした新聞広告に「いちばん売れてるクラシックレコードが、ヴィヴァルディの『四季』だって書いてあったんですよ。「へぇ、どんなもんだろう」と思って試しに聴いたら、すぐヴィヴァルディが自分に合ったんですよね。そこからクラシック音楽に目覚めていろいろ聴き始めたんです。ところが、なかには寝ちゃう曲もあったんで、寝落ちを防ぐために迷路を描き始めたんです。

 

完成品を近所の人に配る目的で200枚刷るも、150枚は余って物置行きとなる。
家族の反応は冷たい。

 

うちの嫁が、「あの迷路、邪魔。ゴミ」とか言い出してね、最初付き合ってるときに見せたら、「うわ、すごいね」と言ってたんだけど。心のうちではね、「この人、大丈夫かしら」と思ってたって(笑)。その会話を、娘も横で聞いてて、「普通のゴミじゃもったいないよ、資源ゴミにしな」なんてほざきやがって。

 

その後、長女のSNS投稿をキッカケに作品が話題を呼び、テレビ取材まで受けるようになるが、野村さんはマイペースに制作を続ける。

私的な”良さ”

 

他にも、外観がサイケなイラストで塗りつぶされたカラオケ喫茶、武装ラブライバー、爆弾さんなどバリエーション豊かな制作者へのインタビューが集まっていて、飽きることがない。
どの作品も、一般的なアートから受ける感動からは遠い場所にある。ほとんど他人には良さがわからない、私的な作品だ。
ただ、私的な領域を煮詰めた作品だからこそ、生き様がそのまま乗っかっているようで、他人の我々から見ても凄みを感じることができるのかもしれない。
私的にしか価値がない「好きなこと」の尊さを、本書は気付かせてくれる。

 

  1. 動画投稿サイトYoutubeへの動画投稿により広告収入を得る職業
  2. 2006年から活動を続けるYoutuber。アップロードされた動画の総再生数は億を超える
  3. 1892年生まれ。50年以上にわたって、300枚の挿絵と1万5000ページ以上のテキストから成る小説・通称『非現実の王国で』を制作。作品は死後発見された
  4. 1836年生まれ。30年以上にわたって路上の石を拾いつづけ、『シュヴァルの理想宮』と呼ばれる奇抜な建造物を制作